『みんな元気』

cinemachouchou2005-03-19

何故かまた観たくなったので観た。登場人物がごっちゃになり記憶が薄れていたが思い出せた。別に役名などはどうでもいいのだけれど。切なく優しい感情をおぼえる傑作映画だ、やっぱり。


定年退職した74歳(老眼鏡が印象的!)のスクーロ(マルチェロ・マストロヤンニ)はシチリアに住んでいる。5人の子供達はそれぞれ自立しているが全く連絡もよこさない。なので、みんなを驚かせよう〜と意気揚々とローマへ旅立つ。孫へのお土産なども詰めて。


順番に子供に会いに行くのだけれど、父との再会を喜ぶ裏に言えない諸々の問題を各自が抱えている。まだ若い少年である孫が妊娠させたと聞かされたり、夜中隣室で聞こえた会話には「父上は好きだけれど、早く帰って欲しい。」とか...挙げ句の果てには、最後まで姿を見せない息子アルヴァーロは自殺して遺体も海で見つからない、新聞欄にも僅か2行で名前も間違っていたと。


スクーロはみんなで集まって食卓を囲む事を楽しみにしていたけれど、来たのはグリエルモとカニオの2人だけ。息子3人、娘2人、その伴侶、孫たちが揃ったのはもう旅の終わり間近の疲労で入院した病床でだった。何とも...という悲哀とこれが現実なのだろうか?と私は切なく、でも、子供達のそれぞれの人生や父に言えない気持ちも分かる部分がある。しかし、我が子が自殺した事を知らずに会いに来て聞かされるなんて...。現代の親子関係を感じた。イタリアもこの日本でも同じ様な事が言えるのだろう、全ての家族ではないけれど...。


スクーロはシチリアに戻り、愛する妻アンジェラのお墓で子供達の様子、旅の報告をする。あたかも傍に寄り添っている妻に語りかける様に(魂は寄り添い合っているのだと思う)。そして、妻にはアルヴァーロの死は告げず、「遠くのものはいつも綺麗に見える。みんな元気だ。子供達もよろしくと言っていた。」と。伝えない思いやりという事もある、時に。


親とは子供が幾つになっても子なのだ。幼い子供時代が時折フィードバックする。死んでしまったアルヴァーロの子役を演じるのはサルヴァトーレ"トト"カシオ(前作ニュー・シネマ・パラダイスの)。個人的に嬉しかった場面はスクーロが旅の途中の列車の中で巡り合う女性がミシェル・モルガンだったこと。年老いてもお美しく気品溢れる優雅な佇まいが素敵過ぎた。


マルチェロ・マストロヤンニが、ご自分の事を「私は美男でもなく演技も下手だし...」という様なお話をされていたのを映像でお聞きした事がある。しかし、50年代初期からお亡くなりになる1996年まで全くのブランクの無さで、毎年の様に数多くの名作に出演された。正しく、映画人生と言えるものだろう。数が多いのでまだまだ未見のものがある。それでも30数本は観ているとチェックして気付いた。そして、どれも何かしらの印象、シーンを思い出させて下さるのだ。私がマストロヤンニが好きだと言うこともあるけれど、演技が上手いとかとは違う魅力が役者の方にはある。名優と呼ばれるハッキリした基準など無いだろうし、不必要!でも、素晴らしい名優のお一人だ。もう新作でお会い出来ないけれど、こうしていつでも映画の中でお会い出来る...そして、「やっぱり、好きだぁ〜♪マストロヤンニ」って思えて嬉しい。


「みんな元気」:STANNO TUTTI BENE
1990年 イタリア/フランス合作映画 ジョゼッペ・トルナトーレ監督
出演:マルチェロ・マストロヤンニミシェル・モルガン、ジャック・ペラン、サルヴァトーレ・"トト"・カシオ
音楽:エンニオ・モリコーネ